三重県多気郡大台町明豆(みょうず)に広がる「トヨタ三重宮川山林」は、明治期から林業が行われてきた、面積約1700ヘクタール(東京ドーム約364個分)にも及ぶ山林です。

2007年にトヨタに引継がれ、自動車事業で培ったノウハウを活用され、森づくりに取り組まれています。

トヨタは10年間林業再生を目指したのち、森の新たな価値が地域活性化に繋がるのではないかと考え、2017年に林業だけではない新たな視点で森を活用するアイデアを広く募集しました。

それが、トヨタ三重宮川山林を舞台に独自の発想で山林や森にあるものを活かし、山と関わる人を増やす新たなプロジェクト「フォレストチャレンジ 森あげプロジェクト」。

合宿と最終審査を経て選ばれた2名がチャレンジャーとなり、現在大台町で既に活躍されています。

今回はその中から、木工作家である吉川和人さんにお話をお伺いしました。

プロジェクト参加のきっかけ

東京の工房を拠点としていた吉川さんは、Facebookでトヨタのフォレストチャレンジを知ったそうです。

「当時、この事業に応募するか決める前に、現地に行ってみました。杉やヒノキを持て余している、活用に困っている地域は全国各地にあるから、特性や売りがないと難しい。

大台町に実際に足を運んでみると決め手となる環境が揃っていることが分かりました。大台町は町全体がユネスコエコパークであること、清流日本一に何度もなっている宮川上流に位置すること、伊勢神宮が近いこと。数々の条件が付加価値となると考えました。とはいえ、実は個人的に子供の頃からきれいな川が好きだったというのが一番の大きな理由なのですが(笑)。

また、この森をトヨタ自動車の前に所有していた諸戸林業の初代の思想である『国の繁栄や人々の日々の生活の幸せは、森と深く繋がっている』というところにも、とても共感を覚えました。」

東京から三重県大台町まで、距離にして400km以上。実際に現地を訪れて事前調査されるというフットワークの軽さに驚かされました。

 

フォレストチャレンジャーとして選出された吉川さん。このプロジェクトに参加して実現した夢を話してくださいました。

「木工作家は通常、材料を問屋から仕入れます。このプロジェクトなら、山側と直接取引ができる。材料の始まりが見えるから、他とは違うアプローチができます。
『山と直接繋がりたい』という夢が、この場所なら実現できると期待しました。」

大台町の知名度と将来性についても聞いてみました。

「東京でも、アウトドア愛好家は大杉谷を知っています。川というアクティビティもあります。観光の拠点としても十分な町。」

 

吉川さんの新拠点、大台町の工房とは

お話をお伺いするためにこの日お邪魔したのは、2019年5月に決めたという、吉川さんの新しい拠点となっている大台町内の工房です。

清流日本一の宮川沿いにある、広々としたこの工場は昔、「木毛」と呼ばれる果物の緩衝材を製造していた木工所だったといいます。

 

この建物を工房に選んだ経緯を伺いました。

「探し始めた当初は、地域に知り合いもなく、希望に見合った物件はなかなか見つからなかったんです。そこで、木を扱う作家の間では有名な『武田製材』さんが三重県だと知っていたので住所を調べると、大台町でトヨタ三重宮川山林からも近いということが分かりました。早速連絡を取り、工房探しを手伝ってもらい、この場所に辿り着きました。

とにかく本当にきれいな川がすぐ横を流れているというところ、また天井がとても高い大空間で、都会にはない非日常性がとても魅力的でした。」

今回の大台町滞在には、2019年9月に入社された松澤さんも初めて同行されていました。大台町の印象を聞いてみました。

「以前の務め先で、家具を納めに何度か三重県に来たことがありましたが、大台町は初めて。空気が美味しくて感動しました。車で看板を見ながら来ましたが、各地区の地名も素敵ですね。」

 

大台町での今後の活動は

今後は大台町の工房を拠点に、どのような活動をされていくのでしょうか。

「これからこの工房を、人が来て楽しめるようにリノベーションしていきます。大家さんも前向きに手伝ってくれています。
今後は木工に親しめる場所として、ワークショップや教室を開いていく予定です。」

ワークショップについて、吉川さんは木工と「何か」というコラボレーションも提案してみえます。

様々な掛け合わせの可能性が広がる中で、ここ大台町というフィールドで「木工×〇〇」に当てはまるアイデアとは?

「木工×アウトドア。その視点で注目しているのが、海外発祥の『グリーンウッドワーク』という工法です。グリーンは生を意味します。通常木工は乾いた木で行いますが、グリーンウッドワークは生の木を使います。柔らかくて加工しやすいんですよ。原始的な時代は、乾いて硬くなる前に加工していたと思います。

この工法もそうですが、ワンクリックでなんでも手に入る時代だからこそ、実際に自分の手を使って何かを作る過程や、身体性を伴ったアナログなもの作りがおもしろくなってきている気がします。」

大台町は面積の93%を森林が占めていて、町内全域がユネスコエコパークに登録されています。この町でしか体験することのできない「木工×アウトドア」がきっとあると思います。

また、吉川さんは大台町の三重県立昴学園高校で木工ワークショップの授業を持たれていたり、大台町に本社を置く「三重額縁」ともコラボされていたり、地域との交流を始めていらっしゃいます。

「大台町のこの新拠点でも、教育と製品開発の二本柱で利益を上げ、森や地域に還元していくのが目標です。」

森と人をつなぐチャレンジャーとしての活躍の今後に期待しています。

今回は、トヨタ三重宮川山林「フォレストチャレンジ 森あげプロジェクト」チャレンジャーの一人、木工作家の吉川和人さんを紹介しました。

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